超音波治療器の「超音波」とはどのようなものなのでしょう。「超音波」という言葉はしばしば耳にしますが、実際、それがどのようなものなのか、具体的な内容について私たちはあまりよく知りません。「超音波」とは? そして、超音波治療器の開発の歴史を紹介しながら、その特徴を詳しく紹介します。
超音波の眼科への応用は、時代の要請!
一般に人に聞こえる周波数の範囲(可聴域)は、低い音で20ヘルツ、高い音で2万ヘルツくらいまでの間です。こうした人に聞こえる音を、可聴周波といいます。
これより高い周波数の音波、つまり「人間の聴覚器官では捉えられない周波数の高い音波」のことを超音波といいます。
逆に、可聴周波より低い周波数の音波つまり「人間の聴覚器官では捉えられない周波数の低い音波」のことを低周波といいます。しかし、広義の意味では、「人間の耳で直接聞くことを目的としない音波」のことを超音波といいます。つまり、2万ヘルツ以下の音波でも、それが直接聞く事を目的としないものならば、それも超音波ということになります。
別の言い方をすると、使用音波が可聴域にあっても、人間が聞くことを目的としない場合の音波域の応用を、超音波技術と定義されていていて「低数帯域超音波」というのです。(超音波治療器「アイパワー」は、「ピィ~」という音が聞こえます。これは、広義の意味での超音波1万2000ヘルツを採用しているためです)
音は、空気中を振動して伝わってきます。その振動波は高い振動波から低い振動波までかなり幅があり、さまざまな特性を持っています。そのため、これまで多くの分野で研究が進められ、利用されてきました。
代表例としては、漁業に使われている魚群探知機や、身体の内部の状態を外から診断するための医療用スキャナー、振動波を利用したマッサージ機器などです。超音波は、マッサージ機器のように理学療法の分野で当初、利用されてきましたが、眼科への応用は困難とされていました。
治療対象となる眼球は、きわめて精密な組織ですし、眼球そのものも大変小いため、超音波の投射は危険がともなうとされていたのです。
なにしろ、非常に高い周波数の超音波には、破壊作用もあるほどです。眼球にとってほどよい振動とはどの程度のものなのか特定しなくてはなりません。眼球の細胞に対して、特定されたほどよい超音波を間違いなく投射するためのコントロール技術も必要です。
しかし、眼科への応用は、時代の要請でした。
山本博士が「眼科用手持ち超音波治療器」を完成させる。
眼科の世界的権威として知られる山本由記雄博士を中心としたグループが、近視の治療に超音波を取り入れはじめました。
山本博士は1962年に、芝浦工業大学の岩竹松之助教授、石田博講師らの協力を得て、ついに「眼科用手持ち超音波治療器」を完成させたのです。この「手持ち超音波治療器」についての研究は、第16回日本臨床眼科学会、ついで1964年の第1回国際近視学会で発表され、国内だけでなく海外でも大変な反響を呼びました。
山本博士の研究論文によれば、そのときの博士の臨床実験では、仮性近視および真性近視になって2年以上たっている10歳以上の患者を対象に、1~2日間隔で20回、1回につき10分間、片眼に超音波を投射する治療を行ったといいます。そして結果は、2週間~3週間で視力の向上が見られ、多くの人は第1回投射後ただちに視力が上昇したといいます。
その後の治療効果についての追跡調査も加えられています。それによると、超音波を開始してから1年以上の期間にわたって観察した結果、近視の患者の視力改善はもとより、眼球の屈折率が改善していることがわかったのです。
角膜の屈折率が改善したという意味は、近視の改善が一時的なものではなく、さらには近視の進行を食い止める根本的な治療効果があることを明示するデータということができます。こうして「眼科用手持ち超音波治療器」は、厚生省から初の認可を受けることになったのです。
安全かつ副作用のないもの、これは必須の条件!
目はたいへん精密な組織です。
だからこそ、目に直接投射する方法で治療に用いられる超音波は、絶対に安全かつ副作用のないものでなくてはなりません。これは必須の条件です。平成15年に国から認可を受けた超音波治療器「アイパワー」には、使われている低数帯域の縦波の超音波には、次のような特徴があります。
①超音波の中でも音響出力がごく微弱である。
②発振周波数が、ヒトの生体組織細胞がもつ固有振動周波数に対応した適切な低数帯域周波発振数である。
③振動が抵抗なく組織細胞に深く吸収され、かつ障害を起こさない。
つまり、安全かつ副作用がないということです。
補足になりますが、たいへん興味深いことに、超音波を投射している目だけでなく、もう片方の投射していない目のほうにも、同様の効果があらわれることです。よく両方の目はつながっていて、片方の目が悪くなるともう片方の目も悪くなるといわれますが、その逆も起こるということでしょう。
浅井 博先生インタビュー
ホメオスタシス、ホルミシスから超音波治療器の魅力を解く!
近視は不健康なホメオスタシス状態。
“ホメオスタシス”(Homeostasis、恒常性)という生理学用語は、健康、体に関しての情報の中で意外とよく出てくる。
広辞苑で調べると、(ホメオは同一の、スタシスは静止状態の意) 生物体の体内諸器官が、外部環境(気温・湿度など)の変化や主体的条件の変化(姿勢・運動など)に応じて、統一的・合目的に体内環境(体温・血流量・血液成分など)を、ある一定範囲に保っている状態、および機能。
哺乳類では、自律神経と内分泌腺が主体となって行われる。その後、精神内部のバランスについてもいうようになった。
とある。簡単にいうと一定の状態を保つ“恒常性”のこと。一定の状態とは環境などの外的要因からの影響でも常に体を維持しようとする働き。
「例えば、人間の体温は、約37℃に保たれています。寒くなったら代謝を活発にして身体を温かくし、暑くなったときは汗を出して体温を下げる、これが“恒常性”です」と浅井先生。
さらに詳しくいうと、体内の状態がいつも比較的狭い範囲内で変動しているといった動的な平衡状態のこと。外界が絶えず変化していても体内の状態は比較的安定した状態に保たれている。
逆にいうと、病気のほとんどがホメオスタシスの失調の結果である。つまりホメオスタシス(人体の安定した一定の体内状態)が維持できなくなったために病気になってしまうという。
人間の体は一定の生体リズムに沿って、一定の収縮(活動)と弛緩(休息)を繰り返しているが、社会環境の変化、不規則な生活習慣やストレス状態が続くと生体のリズムの誤差が大きくなり、ホメオスタシスの修正ができず不調を感じたりして、健康維持が難しくなるのだ。
「視力で考えた場合、近視は不健康的なある種のホメオスタシス状態です。パソコンやスマホなどで目の酷使すると、血流が悪くなって酸素供給がうまくいかず、目の細胞が不活発になって毛様体筋が固まってしまう。この結果、ホメオスタシスの失調が起こってピント調節がうまく働かず、この状態が継続することで不健康なホメオスタシス状態になっている。これを解消するためには刺激を与え、健康なホメオスタシスの状態に戻せば良い」
有益な効果をもたらす超音波治療器は、ホルミシスの好例。
よく知られているのが、低放射線ホルミシス(低線量放射線)。
世間では、放射線というと体に有害なものと認識されている。確かに、放射線は大量に浴びると体に害を与える。が、地球上には常に微量の放射線が放出されてる。この自然放射線の10~100倍の放射線を浴びると、健康にいいということがわかってきている。
例えば、岩盤浴や温泉などで使用されている天然ラジウム鉱石は、水に入れるとラドンという放射線を発する。微量のラドンが体内に入ることによって、細胞が刺激されて新陳代謝が向上。免疫力や自然治癒力がアップすることが、実験や臨床応用で証明されている。
「これも放射線ではなく、漬物の『キムチ』には欠かせない唐辛子で考えると分かりやすい。唐辛子の辛味の主成分であるカプサイシンは、毒性があるということがいわれていて、摂りすぎは良くないが、少量であればエネルギー代謝を活発化し、体脂肪の分解を促進する働きがあるのです」
「ホメオスタシスの日本語訳である恒常性の『恒』は、星の恒星と同じ字を使い、動かない、変化しないという意味です。一方、ホルミシスは日本語訳が見つけにくいが、しいて訳せば『刺激賦活性(しげきふかつせい)』とすると理解しやすい。 賦活の意味は 、活力を与えること、物質の機能・作用を活発化すること、です」
「人間は刺激を与えないとダメです。一人で音もない密閉した部屋に閉じ込められると、3日間で気が狂ってしまう。外部の刺激がないと生きていけない」
超音波治療器『アイパワー』に使われている超音波の働きは、このホルミシスの面から見ると分かりやすい。
非常に高い周波数の超音波は、破壊作用もあるほど危険だが、微弱な超音波は、人の細胞活性を刺激したりして有益な効果をもたらす。超音波治療器の微弱な超音波をあてることで、血流が良くなり、細胞も活性化するのだ。
超音波治療器『アイパワー』は、不健康なホメオスタシスの状態の目に対し、有害となる量に達しない少量の刺激(ホルミシス)をもたらすことで、健康なホメオスタシス状態の目に戻す働きをする。まさに、超音波治療器は“ホメオスタシス”“ホルミシス”を説明する上で好例といえる。
早稲田大学名誉教授(物理学科)。1961年名古屋大学大学院理学研究科修了。理学博士。1961~1967年の間の合計3年半,米国カリフォルニア大学医学部心臓血管研究所のポスドクおよび上級生物物理学研究員。主な研究分野は,細胞生物物理学。2014年秋の叙勲において、瑞宝中綬章を受章。