筋力低下により、どんどん体は老化する。
「もう歳だから、体の衰えはしかたない」「運動なんて、時間はないし、苦手だし、とても無理」と思っていませんか。身の回りを見ても、必要に迫られない大半の現代人は、体を動かすことに無関心です。筋肉が衰えると、足腰が弱ったり、体のバランスを崩しやすくなる、というのはみなさん知っていますよね。
さらに、筋肉の衰えは、免疫力の低下、動脈硬化、認知症リスクのアップにつながっているとしたら、どうでしよう。
ここでは、シニアにとって筋力がいかに大切か、そして筋力アップの方法を紹介します。
日本は世界一の長寿国になりました!! でも……。
WHOが発表した2021年版(調査のデータは2019年)の世界保健統計によると、平均寿命が最も長い国は日本で84.3歳でした。 2位はスイスで83.4歳。男女の平均寿命は84.3歳で、日本は世界一、長生きの国となったのです。
ちなみに、男女別で見ると、日本の女性の平均寿命は86.9歳で世界1位。男性は81.5歳で残念ながら世界2位、1位はスイス(81.8歳 )でした。
また、日本の100歳以上の高齢者数は、令和3年度(2021年度)で86,510人。そのうち、女性が7万6450人、男性が1万0060人でした。ほんと、日本人は長生きなんです。
健康寿命を知っていますか? 長生きしても、寝たきりや介護を受けて過ごすのでは…。
ところが、気になるデータも出ています。それは健康寿命です。
厚生労働省は2021年12月、介護を受けたり寝たきりになったりせず日常生活を送れる期間を示す「健康寿命」を発表しています。
それによると、2019年、日本人の健康寿命は男性72.68歳、女性75.38歳でした。2019年の平均寿命と健康寿命の差は男性8.73年、女性12.07年もあるのです。
つまり平均寿命は世界トップでも、介護を受けたり寝たきりになったりの日常生活に支障がある期間が、男性は8.73年、女性は12.07年あるということです。いくら長生きしても、10年前後、寝たきりや介護を受けて過ごすのでは…ですよね。
※厚生労働省は2021年12月、2019年の「健康寿命」を公表しています。健康寿命は3年ごとに算出され、今回は4回目。約68万8,000人を対象とした国民生活基礎調査を基に推計しています。
加齢による筋肉の衰えを放置するのは、とても危険!
世界保健機構(WHO)が2018年、ちょっと気になる警告を出しています。世界の成人の4人に1人、約14億人が運動不足で、高所得国では30%を超えて増加中というのです。運動不足は高脂血症・高血圧・糖尿病などの生活習慣病を引き起こす主要な原因のひとつになっているのです。
ここで、とくにシニアの方に注目して欲しいのが「筋力」です。
筋肉には、体を支え、動かす、という機能があります。「それくらいは知っている。でもトレーニングしてまで筋力をつけなくてもいいんでは」と、軽く考えている方に警告です。それは大間違い。
筋肉は、立ち座りや歩行速度など、移動能力の維持に直結します。移動が自分でできなくなると、「歩く速度が低下する」「転倒・骨折のリスクが増加する」「着替えや入浴などの日常生活の動作が困難になる」など生活が制限され、人生の質が変わってしまうのです。
反対に、筋肉を鍛えるために体を動かし続けることで、脳や筋肉、骨、血管など臓器が適度に刺激され、機能が維持・活性化されるのです。
また、筋力低下を放置していると、なんと免疫力まで低下してしまいます。
実は、免疫細胞が病気と闘うためには、グルタミンというアミノ酸が必要なのですが、そのグルタミンは、筋肉からつくられているのです。人の体は病気になると筋肉を分解してグルタミンを体内に供給しようとします。ところが筋肉量が足りない人は、グルタミンを十分につくることができず、病気に抵抗できなくなるのです。
さらに、筋肉はエネルギー「ブドウ糖」の貯蔵庫で、血糖値の調整を行う働きがあります。食後、血液中の糖が多くなります。糖は、脂肪にも蓄えられますが、じつは、その多くは筋肉にため込まれているのです。
それだけに、筋肉の量が減ってしまうと、当然、糖をためておく場所が少なくなるため、糖を調節する力が低下して血糖値が変動しやすくなり、糖尿病の発症リスクが高くなるのです。
筋肉には、「速筋」と「遅筋」の2種類があり、ウォーキングでは「速筋」は鍛えられない。
筋肉には速筋と遅筋の2種類があります。瞬発的に大きなパワーを生み出すのが「速筋」で、筋トレや短距離走などの無酸素運動をするときに使われます。
いっぽう、大きな力は出せませんが、持久力を発揮する際に活躍するのが「遅筋」です。ウォーキングやマラソンなどの有酸素運動をするときに使われます。若い時は速筋と遅筋が、全身にバランスよく備わっていますが、年を取るにつれて速筋のほうが先に萎縮します。このため素早い動きができにくくなり、転倒などの危険性が増します。安全な生活を送るには、速筋の補強が欠かせません。
ウォーキングでは速筋はまったくといっていいほど使われません。速筋は、筋肉に負荷をかける「筋トレ」で鍛えることが必要なのです。とくに、下半身を中心に筋トレを行うと効率的に筋力をアップさせることができます。ここでは下半身と腹筋の筋肉を増やすトレーニングを紹介します。無理のない回数から初めて、徐々に増やしていきましょう。
筋トレの種類、やり方は、各公共機関でおこなっていることがありますので、一度、問い合わせして、専門家の指導のもとにおこなうのがおすすめです。
筋トレ……スロースクワット ・クランチ・ヒップリフト
筋トレをおこなう時の注意点
● 腰に不安のある方、高血圧の方は、運動回数や動かす範囲を少なくして、無理のないよう、軽い負荷から始めましょう。
● 筋トレを始める前は、準備体操をおこなって体を温め、動きやすい状態をつくってください。筋トレ後も、緊張した体をほぐすことが大切です。
● 筋トレを始める前は、準備体操をおこなって体を温め、動きやすい状態をつくってください。筋トレ後も、緊張した体をほぐすことが大切です。
● ゆっくり丁寧におこなうと、目的の筋肉にしっかり負荷を与えることができます。
日常生活を見直して、筋力が減らない工夫をしよう!
テレビをみたり車通勤をしたりと、座る時間が長いと筋肉量が減る。
世界で最も座る時間が長い国、それは日本です。世界20の国や地域で座っている時間を比較した調査では、日本は最も長い7時間という結果が出ています。
テレビをみたり車通勤をしたり、座って過ごす時間が長いほど、死亡リスクが高かいという研究発表があります。人体の筋肉の中で約7割を占める足の筋肉が動かないため、血流が滞り、代謝機能が低下するからです。それが積み重なり、長期化すれば、糖尿病、高血圧、脳梗塞、心疾患、がん、さらにはうつ病や認知症などあらゆる病の引き金となるとされています。
対策としては、定期的に立つ、歩くといった動きをすること。理想は、30分に1回、立ち上がること。それが難しい場合は、1~2時間ごとに10分程度、軽く動くだけでもリスクを軽減することはできるそうです。
エスカレーターやエレベーターを利用せず、階段を使おう。
エレベーターの代わりに階段を使うことで、身体活動量は7倍に上昇します。また、毎日にたった2分間を階段上りに費やすだけで体脂肪を燃焼させ、約0.5kgの体重増加を防ぐことができ、さらに、1日3階分の階段を上ることを1週間続けると、脳卒中の死亡リスクを20%下げることができるそうです。
すぐ近くなのに、車を使ってしまう、それもNG。
車があると、ついつい、歩いていける距離でも車を使いがち。これが筋肉量の低下につながり、疲れやすくなり、車やエスカレーターなど楽な方法を選ぶようになります。すると、さらに筋肉量が低下するという悪循環に陥ります。
近くに買い物にいくときは、なるべく歩く。昼は、食後15~20分程度休息してからウォーキングを行う。休日は家にじっとせず、散歩に出る。外出で車を利用するときは、できるだけ遠い場所に駐車する(空いていて停めやすいです)などなど、工夫次第で筋肉量低下を防げます。
食事制限のダイエットは危険。
食べるものを少なくすれば、足りないエネルギーを筋肉や脂肪から取り崩してエネルギーにします。筋肉が減ると代謝も下がり、体重が減らなくなります。食事制限だけのダイエットは実はとても危険です。
空腹で悩まされずに体重を落とすには、体に入ってくるエネルギー量(カロリー量)を越える運動量を行えばよいのです。