視力回復のための基礎知識
私たちが普段よく使っている目のトラブルに「近視」「遠視」「乱視」があります。ところが、正しくその仕組みを理解している人は意外と少ないのではないでしょうか? このページでは、近視・遠視・乱視の3つに的を絞って、詳しく解説します。
近視とは
……毛様体筋のトラブルで起きる「屈折性近視」……
近視は、遠くにあるものが網膜の手前で像を結んでしまう屈折の変化です。ですから、遠くのものはよく見えなくなりますが、近くにあるものは、ちゃんと網膜で像を結ぶため、比較的よく見ることができます。
この近視は屈折性近視と軸性近視に分けられます。
まず屈折性近視とは、眼軸(目の部分名称でいうと角膜から網膜までの長さのこと)は正常な状態にあるのに、眼球内の水晶体が常に近くのものを見ている分厚い状態となっているために遠方のものがぼやけて見える症状をさします。
私たちがものを見るとき、目はカメラのレンズのような働きをする水晶体の厚さを調節し、ピントを合わせています。 この調節にかかわっているのが「毛様体筋」(もうようたいきん)という筋肉で、水晶体を引っ張ったり緩めたりしています。 遠くを見るときは、毛様体筋が緩まり、水晶体を薄くしてピントを合わせます。
テレビやパソコン、スマホなどを近くで長時間見続けると、毛様体筋の緊張が解けず、調節機能にトラブルが起こるのです。遠くを見る時、毛様体筋がうまく働かず、水晶体を薄くすることができず、遠くがぼけてしまいます。
屈折がうまく働かないので「屈折性近視」といいます。
もう一つは、眼軸長(がんじくちょう=角膜から網膜までの長さ)が長すぎることによるもので、「軸性近視」といいます。
人間の目は、前述したように水晶体の厚さを「毛様体筋」が緊張したり、ゆるくなったりすることで、ピントを調節します。パソコンやタブレット、スマホなどの利用で、手元にピントを合わせた状態が毎日のように長く続くと、眼球自体が変形し、前後に伸びてしまいます。極端にいうと、まるでラグビーボールのように楕円形になってしまうのです。
元々丸かった眼球が、変形してラグビーボールのような形になることで、遠くを見た場合、網膜の手前で焦点が合っている状態になります、これが軸性近視です。
文部科学省は2022年6月23日、2021年度に初めて行った「児童生徒の近視実態調査」の結果を発表しています。長いほど近視の度合いが強いとされる目の角膜から網膜までの「眼軸長」を測定したところ、学年が上がるにつれて長くなっていたのです。
調査は全国26校の小中学生約7,400人を対象に、2021年4~12月に実施。眼軸の長さは成人の平均で24ミリ前後とされていますが、調査の結果、
●小学1年生の平均では
男子が22.96ミリ、・女子が22.35ミリ
●小学6年生の平均では
男子が24.22ミリ、・女子が23.75ミリと大人と同じ程度に達し、
●中学3年生では、
男子が24.61ミリ、・女子が24.18ミリとさらに長くなっていました。つまり軸性近視になっているのです。
眼軸長は生後すぐは約17mm、3歳で22.5mm、13歳でほぼ成人と同じ24mmになるといわれています。
……近視が進むほど眼病のリスクが大きくなる……
近視になってもメガネやコンタクトにすれば済むと軽く考えがちですが、2020年に「IOVS」に発表された数値を見ると大間違いなことがわかります。強度近視になると、近視のない人に比べて、失明のリスクのある網膜剥離は12.6倍、白内障は4.5倍の発症率です。軽度近視でも、軽視できません。近視のない人に比べて、網膜剥離は3.1倍、白内障は1.5倍の発症率。近視の度が進む前にケアを始めましょう。
なお、近視の強さは、「屈折度数」(単位:ジオプトリー(D))によって3つに分類されます。
-6.0D以上 → 強度の近視
-3.0D ~ -6.0D → 中等度の近視
-0.5D ~ -3.0D → 軽度の近視
参考文献:オンラインジャーナルのIOVS(Investigative Ophthalmology and Visual Science)に2020年4月発表された論文「近視の合併症:レビューとメタ分析」より。IOVSは視覚系の理解と予防に関する研究を世界的に進めることを目的とする国際組織「ARVO」の機関誌です。
遠視とは
……遠視は、遠くがよく見えて、近くがぼやけるというのは、大きな誤り……
5メートル以上遠くの像を見ている時、私たちの目は、水晶体の厚みを調節しない(無調節状態)で見ています。が、遠視の人は網膜の後ろでピントが合ってしまうため遠くがぼやけていますし、近くはもっとぼやけています。遠視は、遠くも近くもボンヤリして見にくい目なのです。
遠視でも程度が軽ければ、水晶体をふくらませる「調節」をおこなって、ピントを合わせることができるので遠くがよく見えます。しかし、近くにピントを合わせるには、遠くを見るよりもっと水晶体をふくらまさなければならないので、近くは見えにくくなります。
つまり、遠視は、前述のように毛様体筋をいつも緊張させているので、毛様体筋へのストレスが多くなります。
網膜の後ろにピントが合ってしまう原因は二つあります。
一つは水晶体の屈折力が弱いためです。これを「屈折性遠視」といいます。
もう一つは、近視とは反対に眼軸長(角膜から網膜までの長さ)が短いためです。屈折力が普通でも、角膜から網膜までの長さが短いので、ピントが網膜の後ろで合うことになる「軸性遠視」と呼ばれる先天的なもので、遠視はこれがほとんどです。
遠視の場合、視神経の発達が完了するまで(個人差はありますが6歳ごろに終わる)に対処しないと、斜視になったり、弱視になることもあります。
弱視とは、眼鏡やコンタクトレンズで矯正しても視力がでない目のことをいいます。 裸眼視力が0.1以下でも、眼鏡やコンタクトレンズで矯正して1.0以上の最大矯正視力がでれば「弱視」ではありません。
網膜に像を結んだ情報は視神経を通って大脳の視覚中枢に届き、脳が「見えている」ことを認識。この神経経回路の形成は、個人差はあるものの6歳頃までに終わるのです。それだけに6歳頃までに「網膜上にハッキリ像を結ぶ」ことで「見えている」という刺激を脳に与え、視神経の回路を形成しておかないと、手遅れになるのです。
6歳を過ぎ、視神経回路の形成が終わってから、眼鏡をかけてピントを合わせ、網膜上に象を結んでも、脳まで神経回路ができてないので、脳は「見えている」ことを認識できなくなるのです。
乱視とは
……乱視には色々な種類があり見え方も違う……
乱視には、
●正乱視
●不正乱視
があります。
まず「正乱視」というのは、角膜や水晶体が、上下、左右、斜めの、いずれかの方向に傾いたラグビーボールのような形になっているために1点で焦点が合わない状態のことです。
正乱視は、ゆがんでいる方向で、
●直乱視
●倒乱視
●斜乱視
の3種類に分けられます。目のレンズとして働く角膜や水晶体が、上下方向につぶれるようにゆがんでいると「直乱視」、反対に横方向にゆがんでいると「倒乱視」、斜めであれば「斜乱視」になります。網膜上にピントを合わせようと思っても、ある線ははっきり見えるけれど、その線に直角に交差する線は見えにくいという症状が特徴です。
もう一つの「不正乱視」は目のレンズとして働く部分(角膜や水晶体)が不規則にゆがんで、ピントが合いにくくなっている乱視です。片目で見ると、ものが何重にもぶれて見えることが多くあります。
主な原因としては、外部からの衝撃で角膜が傷ついたり、角膜に炎症が起きたりすることがあげられます。また、疾患などで起きることもあります。正乱視はメガネや乱視用ソフトコンタクトレンズで矯正ができますが、不正乱視はメガネや乱視用ソフトコンタクトレンズでは矯正できません。不正乱視はハードコンタクトレンズで矯正します。
(注意)
乱視は網膜の前や後ろでピントが合っている状態なので、メガネで矯正しない限り、はっきりした像を網膜で得られません。6歳以下で乱視の程度が強いと、脳の映像情報を分析する部分が育ちにくくなり、その結果遠視と同じように、弱視となる恐れがあります。幼い子どもの乱視が見つかったら、なるべく早くメガネで矯正して、ピントの合った像を見る必要があります。