ものが二重に見えてしまう、それはスマホ内斜視かも。
今回のテーマは、スマホやタブレットなどの長時間使用で、10~20代の子どもや若者の間で多発している「急性内斜視」(きゅうせいないしゃし)です。急性内斜視の原因は? 起きる仕組みは? 症状は? セルフチェック方法は? 発症した時の対処法・改善策は? 治療法は? など網羅して解説します。
《ページ目次》下の項目をクリックするとジャンプします。
1. 10~20代の子どもや若者に急性内斜視が急増!
2. 急性の内斜視が起こる仕組みと症状。
3. 3カ月間の生活指導で、急性内斜視の人の36%が改善。
4. 急性内斜視の治療法。
5. 内斜視かどうかをセルフチェック。
10~20代の子どもや若者に急性内斜視が急増!
近年、短期間のうちに片方の目の瞳が内側に寄って左右の目の視線がずれる「急性内斜視」が、10~20代の子どもや若者の間で多発しているそうです。
急性の内斜視は、日本では高学年の小学生、高校生、25歳前後の若い人に多く起こる傾向があります。
これらの人たちに急性内斜視が起こる原因としては、遠視や近視、ストレスなど様々な原因がありますが、最近では、スマホやパソコン、タブレット、ゲーム機など「デジタルデバイス」の画面を近くから長時間見ることが一因と考えられています。
私たちの目は、スマホ画面を見ているときは寄り目になっている。
私たちがテレビ画面やスマホを見るとき、毛様体や虹彩(こうさい)や水晶体の働きで画面にピントを合わせています。
スマホ画面との距離が近い時は、目を動かす筋肉の働きで両方の目を寄り目にして画面などを見やすくしています。
通常、寄り目は一時的なものですが、習慣化して寄り目の状態が長く続けば続くほど、元の正しい目の位置「正位」に戻らなくなると、考えられているのです。
急性の内斜視が起こる仕組みと症状。
内斜視は、眼球を動かす働きを持つ筋肉と密接な関係があります。
日ごろものを見るときは、眼球を内側に向ける「内直筋」(ないちょくきん)と外側に向ける「外直筋」(がいちょくきん)という筋肉が働いて、左右の目の視線を合わせています。
目は、近くのものを見る時には、内直筋が縮んで外直筋がゆるみ、黒目が内側によった「寄り目」の状態になります。遠くのものを見る時は、逆に内直筋がゆるんで外直筋が縮みます。
近くや遠くをバランスよくみていると、これらの筋肉は縮んだりゆるんだりして、適度にほぐれます。ところが、近くのものばかり見ている生活が続くと、内直筋が縮んだままの状態になり、元に戻らなくなることがあります。これが急性の内斜視です。
両目の視線が一致しなくなることで、
●ものが二重に見えてしまう「複視(ふくし)」になったり
●物の遠近感や立体感がつかみにくくなったり
●黒板の文字が二重に見えることで勉学に支障が出て、不登校になるケースも
発症の引き金とみられるのが、とくにスマホの使いすぎです。スマホはパソコンよりも目に近い位置で画面を見るため、長時間凝視すると内直筋が収縮したままになりやすいのです。小学校低学年以下で発症すると、視力や両目の見え方の差を使って物の距離感や立体感を認識する機能(両眼視機能)の発達に悪影響を及ぼす恐れがあります。
【斜視の主な症状】
〈ものが二重に見える〉
両方の目で見たときに、ものが二重に見えます。
〈ものを見るときに首を傾けるなどの癖が出る〉
自分の左右の目の視線を調節して、ものが二重に見えるのを避けようとすることがあります。そのために、首を傾けたり、顔の向きを変えたり、アゴを上下に動かしたりするなど、ものを見るときに癖が出ることがあります。
〈立体感や遠近感を把握しにくい〉
ものの立体感遠近感を把握しにくくなります。
〈視力が低下する〉
斜視のある側の目の視力が低下します。
〈眼精疲労、肩こり、頭痛が起きる〉
ものを見ようとするときに左右の目の視線を調節しようとすることで、強い眼精疲労を起こし、それに伴って肩こりや頭痛などが起こることがあります。
3カ月間の生活指導で、急性内斜視の人の36%が改善。
デジタルデバイスの画面を長時間見ることが、急性の内斜視が起こる一因と考えられるため、使用時間を制限したり、使用方法を工夫することが内斜視の改善・予防につながると考えられます。
京都府立医科大学眼科などでは、この有効性などを調べるための臨床研究が後天性内斜視(生後6か月以降に発症した内斜視)と診断された人を対象に行われました。
対象者は、初診時に生活指導(デジタルデバイスの使用方法、使用時間、眼を休ませることなど)を受け、3カ月間はデジタルデバイスの使用を制限。
その使用制限の内容は
①30分デジタルデバイスを利用したら5分間休息をとること。
②デジタルデバイスと目の距離を30センチ以上離して利用すること。
③デジタルデバイスの利用時間を1日あたり小学生以下は1時間以内、中学生以上は2時間以内とすること。
これら制限と適正な眼鏡装用を3カ月行ったところ、8%の人の内斜視が治癒し、28%の人に改善が見られました。臨床研究では、デジタルデバイスの利用時間を減らせなかった人が多かった、にもかかわらず、36%の人が改善しているのです。
急性内斜視の治療法。
「急性内斜視」の治療法は、程度によって違います。
急性内斜視を発症した場合、軽ければ、寄った目を休ませると、戻ることもあるそうです。
●プリズムレンズ眼鏡
症状が軽い場合の治療法です。プリズムレンズの入った眼鏡を使います。光を屈折させるプリズムレンズ眼鏡を使うことで正常に見えるようにします。目に入ってくる光を屈折させることで、視線のズレを補正するのです。
●ボツリヌス療法
12歳以上に限られる治療です。特別な研修を受けた医師のいる医療機関で受ける必要があります。
ボツリヌス菌が作り出す天然のたんぱく質(ボツリヌストキシン)を有効成分とする薬を内直筋に注射し、一時的に内直筋を麻痺させて眼球の向きを正常に戻します。ボツリヌストキシンには、筋肉を緊張させている神経の働きを抑える作用があり、筋肉の緊張をやわらげることができるのです。効果は、注射後1週間ほどであらわれ、3~4カ月ほど持続します。
●手術
急性内斜視がになってから3カ月経っても治らない時は、手術が検討されます。手術では、内直筋が眼球についている位置を後ろに移動させたり、外直筋を短くするなどして眼球を正しい向きに戻します。
内斜視かどうかをセルフチェック。
内斜視が起こっているかどうかを自分で確認
急性の内斜視が起こると、眼球が寄り目になり、黒目がどこを見ているのかわからなくなります。親御さんは、子どもの目の印象や黒目の位置がいつもと違う、と感じたら早めに眼科を受診しまししょう。
また、自分で確認する簡単な方法として、両目で5メートル先の目標物を見てピントを合わせます。次に、片方ずつ目を隠して、それぞれ片目で見た時の見やすさを比較します。両目で見たときよりどちらか片方の目で見た時のほうが見やすければ、内斜視の可能性があります。