テレワークで“座っている”時間が増えていませんか?
なんと、日本人は世界一、“座りすぎ”ている。
新型コロナウイルスの影響で、職場ではオンラインでの会議、テレワーク、しかもプライベートでも行動制限があり、座っている時間がどうしても長くなりがちです。
この20年間で世界的にIT化が進み、日本においても身体をあまり動かさない仕事が増えました。日本国内で働く人の60~70%がデスクワーカーで、平均すると仕事中の70%もの時間を座って過ごしているとか。
いすに座って作業をしたり、ソファに寝転んでじっとしていたりという行動を、「座りっぱなし・座位行動」といいます。
実は、2000年以降、“座位行動”が健康に悪影響を及ぼすとの研究が世界各国で相次いで発表されているのです。
あなたは1日どれくらい「座りっぱなし」ですか?
オーストラリアの研究機関が世界20カ国を対象にした「平日の総座位時間」を調べたところ、なんと日本は世界最長の「1日7時間」であることがわかりました。
調査では、世界20カ国に住む18~65歳の男女4万9,493人(うち日本人459人)を対象に、平日に座ったり寝そべったりしている時間を調査。20カ国の中央値は男女とも300分(5時間)でしたが、日本人の中央値は男性420分(7時間)、女性480分(8時間)で、いずれも世界で最も長かったのです。最近の調査でも、日本人の1日の平均的な総座位時間は480分~540分(8~9時間)でした。
※平均は、集団内のデータ(数字)を足し合わせてデータの個数で割った値を指します。中央値は、データの個数を大きい順に並べてちょうど真ん中に位置する値を指します。
※Bauman AE.Ainsworth B.,Sallis j.et al.The descriptive epidemiology of sitting:A 20-country comparison using the lnternational
Physical Activity Questionnaire(IPAQ).Am J Prev Med 2011;41:228-235.より作成
データで判明、“座りすぎ”は死亡リスクを高める。
Van der Ploeg HP,Chey T,Korde RJ, et al.Sitting time and all-cause mortality risk in 222,497
Austrian aduits.Arch lntern Med 2012;172:494-500.
「座っている時間が長いのは気になるけど、運動不足になるくらいでしょう」と気軽に考えていませんか? それが大間違いなんです。
オーストラリアの調査では、1日11時間以上座っている人と、1日4時間未満の人を比べると、死亡リスクが40%高まるとの結果が明らかになっているのです。1日の座っている時間が4時間未満の人に比べ、4~8時間、8~11時間、11時間以上と長くなるに従って、死亡のリスクが11%ずつ高まるという研究結果が発表されているのです。
また、イギリスやアメリカでも、“座りすぎ”が心血管疾患や糖尿病、一部のガンなどを引き起こすと報告されています。“座りすぎ”に深く関わるがんとして挙げられるのは、主に「大腸がん・乳がん」だそうです。
余暇のテレビ視聴に伴う座位時間が1日2時間未満の成人と比べてると、2~4時間、4時間以上と長くなるにつれて総死亡リスクが11%ずつ、冠動脈疾患死亡リスクは18%ずつ高くなるのだとか。自動車移動による座位時間が週平均10時間以上の成人男性は週4時間未満の男性と比べて、冠動脈疾患死亡リスクが82%も高いことが分かっています。
なぜ、座りすぎが身体に悪影響を与えるのでしょうか?
長時間座り続けていると、全身の筋肉の70%を占める下半身の活動が停止状態に陥ります。もっとも大きな太ももの筋肉や、“第二の心臓”といわれるふくらはぎの筋肉が働かないため、血流や代謝機能が低下。その結果、高血圧や、血糖値が高くなることで、引いては糖尿病などの生活習慣病、肥満、骨粗鬆症などのリスクが高まります。さらに、老年層の認知症に影響を及ぼすため、認知機能の低下、メンタルヘルスにも悪影響を与える要因となります。
“座りすぎ”の害は、週末の運動でも消しにくい。
「平日は座りっぱなしの時間が長くても、週末に、運動しているから大丈夫」と思っていませんか。しかし、それも間違いです。あなたは、「アクティブ・カウチポテト」という言葉をご存知でしょうか。
米国では、カウチ(長椅子)に座りっぱなしで、ポテトチップスを食べながらテレビを見たりしてダラダラ過ごす人のことを「カウチポテト」と呼びます。この言葉にちなんで、習慣的に運動はしているけれど、それ以外の時間は座っている人を「アクティブ・カウチポテト」と呼びます。
アクティブ・カウチポテトの人たちは、自分はしっかり運動しているから大丈夫と安心してしまい、それ以外の時間は、座りっぱなしで過ごしています。しかし、こうした人たちでも死亡リスクが増加することが、近年、分かってきているのです。
座りっぱなしによる死亡リスクの上昇を、運動によってカバーするためには、中強度の運動(早歩きのウオーキングなど)を毎日1時間、1日60~75分は行う必要があるといいます。
誰にとっても、これだけの運動量を毎日確保することはかなり難しいのではないでしょうか。座りすぎの健康リスクを緩和するには、“座りすぎ”の時間を少しでも短くする方が、利口な解消法となります。
“座りすぎ”の害を減らすための生活習慣とは?
座り過ぎを少しでも減らすために、どのような取り組みを行っていくべきかが世界中で議論されるようになってきました。
オフィスでは30分に1回立ち上がって動くと、座りすぎによる健康リスクを軽減するといわれています。伝言はメールや内線電話ではなく、相手のデスクまで歩いて話す、こまめにプリントやコピーを取りに行くなど、“立ち上がって動く”習慣をつくるのが理想です。
会議も立って行ったり、立ってパソコンで作業したり、資料を読んだりできるような環境を整えている会社もあります。
いっぽう、自宅では、テレビを観たりパソコンを使ったりする時間が長い人の場合は、少なくとも1時間に一度、できれば30分に1回は座った状態から立ち上がり、少しでも動くようにすることです。テレビを見ながら、掃除、皿洗いなどを済ませたり、CM中は立って動き回ったり、屈伸するなども有効。心身の健康の維持・増進のためには、このような日常生活でのちょっとした積み重ねが必要なのです。
【オフィスでの“座りすぎ”解消例】
● 用事があるときはメールや内線を使わず歩いていく
● プリントやコピーをこまめに取りに行く
● 立って仕事をする
● 立ってミーティングや会議をする
【自宅での“座りすぎ”解消例】
● 座りながらテレビを見る時間を減らす
● テレビのCM中は立ち上がって家事をする
● 連続した読書、スマホ・パソコン操作では、合間にストレッチをするなど工夫を
● ネットショッピングよりも買い物に出かける
“座りすぎ“の問題と“身体活動不足“
“座りすぎ“の問題は、世界的に蔓延している“身体活動不足“と密接に関わっています。
“身体活動不足“とは、労働・家事・通勤といった日常生活に伴う軽い運動など、安静状態よりも多くのエネルギーを消費するすべての身体活動が、充分に行われていない状態です。
WHO (世界保健機構) は、高血圧 (13%)、喫煙 (9%)、高血糖 (6%) に次いで、身体活動不足 (6%) を全世界の死亡に対する危険因子の第 4 位と位置づけています。日本では3位と報告されるほど深刻化しています。
WHO(世界保健機関)では、成人の場合、健康のために1日30分の中高強度の身体活動を週5日、子供は1日60分行うことを推奨しています。IT化などにより便利な時代になった反面、それと引き換えに健康リスクは年々高まっているのです。