動体視力を鍛えることがアンチエイジ ングにもつながる。
動体視力は加齢とともに衰え、転倒や事故につながる!?
視力には、「静止視力」と「動体視力」があります。静止視力は一般に「視力」といわれる、もっとも基本的な能力です。学校の健康診断や、メガネを作る時に視力検査で測る視力です。この視力検査は、自分も目標も「止まった状態」で、目標の「ランドルト環」がどのレベルまで正確に見えるかを基準にしています。つまり、止まった状態で止まっている物を見るので、「静止視力」と呼ばれているのです。
「動体視力」は、動いている目標を視線にとらえておくという視力のことです。スポーツを行うなかでは、ボールや相手選手などの目標は常に動いており、目標に素早く両目のピントを合わせる能力が重要となるのです。スポーツ界のトップ選手たちは動体視力を向上させる訓練を必ずしています。この動体視力には、目に向かって直線的に近づいてくる目標を見るときの動体視力(KVA)と、眼前を横に動く目標を見るときの動体視力(DVA)があります。
この視力ですが、「静止視力」が高ければイコール「動体視力」も高いというわけでなく、静止視力がいいのに、動体視力は悪いという人が結構います。
スポーツ選手や運転手など動く人やものを相手にする職業の人は、一般的に動体視力が鍛えられています。しかし、オフィスで働くビジネスマンなどは、動体視力が高くない人が多いようです。
この動体視力は、静止視力と同じように、年をとるにつれ少しずつ機能が落ちてきます。また、運動同様、普段から使っていないと機能が低下してくるのです。
動体視力は、スポーツ選手と違って一般の人にとって重要ではないのでは、と思われる人もいるかも知れませんが、それは違います。加齢や普段使わないことによって動体視力が衰えるままに任せていると、命の危険につながることもあるのです。
年をとって動体視力の機能が衰えてくると、歩いているときに周囲の環境をしっかり見極めることができず、床のちょっとした段差につまづいたり、一方の足にもう片方の足がもつれたりして、転倒しやすくなってしまいます。高齢者は、転倒した際に骨折まで引き起こし、寝たきりに直結することも。高齢になってからの転倒は極力避けたいものです。また、都市部の郊外や地方に住み、生活には車が不可欠な人にとっては、動体視力の低下は要注意です。
車の運転では、動体視力は非常に重要です。日本では、75歳以上の運転者が運転免許を更新する場合には、高齢者講習が義務付けられ、運転適性検査の一つとして動体視力検査が行われています。これは、運転に必要な動体視力が年齢とともに低下すると、事故を起こしやすくなることがデータで証明されているからです。高齢になってからの交通事故を防ぎ、生活に必要な車の運転を続けるためには、動体視力の維持は欠かせないのです。
トレーニングで動体視力は向上する!
動体視力は、生まれ持った素質の差はあっても、「静止視力」と違って鍛えることで確実にアップすることができます。日頃から動体視力を使う環境にあると、衰えの進行はゆっくりになります。一般の人にとっては、気づかないうちに動体視力の機能が衰えていて、事故を起こしてから気がつく、といったケースもあるのです。動体視力を鍛えることで、車の運転に支障がないレベルの動体視力を維持したりする効果は、十分期待できます。
では、具体的にどうやって動体視力を鍛えればよいのでしょうか?
動体視力は眼球の周りの筋肉を鍛えることで回復することができるのです。
眼球をスムーズに動かすことは、「見る」というためにはとても重要です。
このようなことが起こるのは、カメラでいうフィルムの役割をする網膜の中心部にある直径わずか約1.5ミリの「黄斑(おうはん)」という部分に関係があります。黄斑には、網膜の中でも物を見分ける細胞がたくさん集まっていて、いつでも目標を網膜の中心にある黄斑でとらえないと、目標物がハッキリ見えないようになっています。
眼球をくるくる動かすのは、しっかりと像を黄斑でとらえるために必要な動作です。もし、眼球が動かなかったら、像を黄斑でしっかり捉えるために、頭や体を小きざみに素早く動かさなければなりません。眼球を動かす筋肉が「外眼筋」で、眼球を動かすことは、「見る」ためにはとても重要なのです。
動体視力の鍛え方。まず目をウォームアップ
まずは眼球のストレッチをしましょう。スポーツをする前に準備運動をするように、目のトレーニングをする前にウォームアップが必要です。
しっかり行なうと、目がすっきりします。
(パソコンやスマホを使用する人は、1時間作業をしたら5分間休憩をとって、目の状態をニュートラルにするために、目のウォームアップにもなります)
親指追いかけ体操
目を動かす筋肉を大きく動かすことで疲れをとる体操です。顔は正面に向けたまま動かさず、親指の爪を見るつもりで、視線だけを送ります。つまり、視力を回復させる目の運動を効果的にするには、視線だけを動かすことです。
※左右の隅、上下の隅などに目を向けた時、ここで目を向けたままゆっくり3つ数えてください。
目のぐるぐる体操
目をなめらかに動かす体操です。両目をとても大きな円を描くようにゆっくり回転させます。一周を10秒くらいかけてゆつくりと行います。ぐるぐる体操は、目をぐるぐるさせるので気持ち悪くなる人がいますが、目を閉じてやってもOKです。
1.ゆっくりと右回りに眼球を回します。 2~3周
2.同様に左回りで眼球を回します。 2~3周
3.最後は寄り目にして5秒キープします。
動体視力の鍛え方…実践編
動体視力は、普段の生活の中で鍛えることができる。
では、本題。動体視力の鍛え方の実践編です。
○車窓から看板や駅名を見る。
電車から外の景色を見ます。近づいてくる景色、遠ざかって行く景色…とさまざまものが目に入ってきます。このとき、目に入ってくる看板や駅名表示板などを読むことが動体視力のポピュラーなトレーニングです。始めは首を動かして読んでもよいのでが、慣れてきたら目の動きだけで文字を読みとります。文字や数字をしっかり読み取ることが大切です。
車に乗っている時も同様のトレーニングができます。車内から外を見るだけでOKです。見るのは外の風景ではなく、対向車のナンバーや一瞬で通り過ぎる看板の文字こと。しかし、自分が車を運転している場合、常に事故の危険が付いてまわりますので、避けるか最大の注意が必要です。車を運転している時はそのことばかりを意識して事故を起こさないように注意しましょう!
※トレーニング時間は目が疲れない程度に、1日数分程度でOK。
車窓を流れる駅名や看板の文字を読み取ることが動体視力のトレーニングになる。
車や電車に乗る機会が少ない方は、次のトレーニングをやってみましょう。
○ボールに貼り付けた文字を読み取る。
練習方法/ボールに文字や数字を切り抜いたものを両面テープなどで貼る。ボールを上に放り投げて受け取るまでに、貼ってある文字などをより多く読み取りコールする。※練習時間5分程度。
このトレーニングですが、ロンドン大会に続いて日本人最年長選手としてリオデジャネイロ・パラリンピックで活躍されている障害者卓球の別所キミヱ選手(68)も、似たようなことを行っています。卓球台から離れた日常生活でも独自の鍛錬を積んでおり、文字の書かれたお手玉を活用し「そこに書かれた文字を読んで動体視力を高めている」そうです。
動体視力の衰えは進行すると、立ち上がった時にふらついたり、 ちょっとしたことで転倒したりするようになり、体を動かすのも面倒になって老化を早めるといった悪循環に陥ることになります。
ちょっとしたトレーニングで老化を抑制し、アンチエイジングに役立てることが可能なのです。